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重箱の隅

好きなことだけ。

『Q&A』未完成レビュー(2)

さて、『Q&A』です。

まず楽曲を読み解く前に、ヒントがつまったインタビューを紹介しましょう*1

 江口(洋介)さんと本木(雅弘)さんが演じる2人は、それぞれ自衛隊の巨大ヘリを設計した人と原発を設計した人なんですけど、そうやって使命を持って何かを生み出す人だったのに、ストーリーが進むにつれ運命が180度変わっていくんです。その2人を分けたものっていうのは何だったのか。あと、ヘリや原発も、使いようによっては役に立つし、使いようによってはすごく危険なものになる表裏一体の面があって。善悪とか、幸不幸とか……。実際、誰かにとって幸せなことは、裏を返すと誰かにとっては不幸せなことかもしれないし。そういう、とても曖昧なものの間で揺れている中で結局どうするのか、自分たちは何を選択するのかってことが曲のメインテーマになりました。

 

善と悪、幸と不幸、
愛と憎しみ、
守ること、傷つけること・・・

表裏一体の、
あるいは曖昧なものの間で
揺らぐ心が 最後に選択するもの・・・


映画『天空の蜂』特別予告篇(主題歌「Q & A」バージョン)

 

そのタイトル通り「問」と「答え」によって紡ぎ出された『Q&A』は、映画の予告編からしても、『水無月』の雰囲気と対極にあることは明白です。

 

光り輝く開放的なCメジャーで、
まっすぐに語られた「希望」と「愛」に対して

 

「問」と「答え」の間を彷徨いながら
惑うココロを暴き出し、
選択を迫るように刻み続ける
乾いたストロークの響き。

 

映画に寄り添いながら、秦さん自身の心が刻んだ言葉とメロディを、『水無月』の時と同様に、「キー」と「母音」という二つの方向から覗いてみましょう。
(母音については、”4.「ア」「エ」「イ」” で取り上げましたが、こじつけ感が強くなったので、削除しました。)

 

1.曲の構成と「キー」について。

まずは、楽曲全体の構造を概観してみましょう。
(↓『Q&A』の特典直筆歌詞カード)

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C#m  E  Bsus4   CM7  C#m  E♭ E」

イントロ、A/A"メロ(×2コーラス分)、ヴァンプ、アウトロで使われ、合計12回も登場するこのフレーズが、『Q&A』の世界観を形作っています。 

 間奏(Inter)、繋ぎ(♪ささやきが~)、クライマックスの大サビ(♪愛して~) は以下の通り。

f:id:kuroiyoh:20160904231832j:image

 

まず、この楽曲のキーを考えてみましょう。

一見したところ、サビ前の繋ぎ部分「Aadd9 Bsus4」を除いて、すべてのフレーズの先頭にある「C#m」が、楽曲のキーだと思われます*2(2016.4月に出版されたオフィシャルギタースコアで「C#m」と確認。)

しかし、『Q&A』という楽曲の世界観を映し出すように、キーも一筋縄ではいかないようです。楽曲の最後を見て下さい。

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曲の締めくくりは、下降しながら①(キーと同じ音)で終わるのが王道パターンですが、ここではそうなっていません。アウトロ(後奏)がイントロと同じフレーズを繰り返すため、楽曲そのものは「E」で終わるのです。

しかも上昇しながら、このフレーズ中一番高いコードで打ち切られるので、突然はしごを外されたような、宙ぶらりんの余韻とともに、Eの印象はとても強く残ります。

 もう一つ気になるのは、Eの1つ手前のコードが「E♭」だということです。
オフィシャルスコアでは、「D#」表記になっていますが、「D#」と「E♭」は同じコードを指します。

ここで秦さんが「E♭ E」と表記した理由はどこにあるのでしょうか。

無意識かもしれない、習慣かもしれない、大した理由はないかもしれない。しかし、先入観なしに観た場合、「E♭ E」の印象は、「Eに落ち着く感じ」です。

この表記は、「E」に向かって、同じコードを半音ズラして作ったもの(ズラシ終わり)のニュアンスが強く、C#mのダイアトニックコードのEでありながら、Eそのものの響きにも焦点を合わせようとしているのかもしれません。

 

もしかすると、この曲のキーは「Eメジャー」なのでは・・・?

 

参考までに両方のダイアトニック・コードを挙げてみましょう。

Eメジャーキーの場合:
E F#m G#m A   B C#m D#m(♭5) E

C#mキーの場合:
C#m D#m(♭5) E  F#m   G#m A  B C#m

ご覧のように、2つのキーのダイアトニック・コードの構成音は全く同じです。

 

映画の内容に沿って言えば、

原発もヘリも、使い方次第で役にも立てば脅威にもなるように、

誰かにとって幸せなことは、裏を返すと誰かにとっては不幸せなことかもしれない・・・。

善と悪、幸と不幸、愛と憎しみ、
守ること、傷つけること・・・。


同じ事柄でも、視点が変われば真逆の様相を見せるように、同じ構成音でも順番を変えてしまえば、真逆の調べとなります(メジャーキーのダイアトニック・コードの6番目から始めれば、同じ構成音のままマイナーキーとなる)。

 

この楽曲のキーは「C#m」ですが、単なる「C#m」ではないようです。

C#m」と表裏一体のキーである「E」の間で揺れ動きながら、「最後はどちらを選択するのか」という映画に沿ったストーリーを、歌詞だけでなく音の上でも表現している・・・。そんなふうに、私には思えるのです。

 

2.「問」と「答え」を繋ぐもの

「曖昧なものの間で揺れる」には、その両者をつなぐものがあるかもしれません。今度は、個々のコードに注目して、C#mとEを繋ぐ音を探してみましょう。

 

C#mの3和音は「C# E G#
Eは「E G# B」。

したがって、C#mがEに移行するには、Bの橋渡しが必要です。


現に、『Q&A』のコード譜にも、A’メロサビを繋ぐ部分にBを含むコードがありました。

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 Aadd9は「A C# E B
Bsus4は「B E F#」

 

歌詞カードのコードだけを見て、アタマで考えていた私は、ここまでたどり着くのに右往左往しましたが、実は最初から、ギターを弾く人間にだけわかるヒントが隠されていました。 

演奏動画で確認してみましょう。

www.dailymotion.com

5弦4フレット(C#)から、3本指のパワーコードに似たフォームのまま平行移動。

C#m  E  Bsus4   CM7  C#m  E♭ E」

フレット移動は、

4→7→2→3→4→6→7

ただし、音色を聴く限り単なるパワーコードではなさそうです。

人差し指はふんわりと弧をえがいており、6弦を軽く指先でミュートしていますが、1,2弦(EB)はミュートされている形跡がありあません。薬指小指も同様です。つまり、C#mの演奏には、Eとの橋渡しとなる「」が(理論を逸脱して)含まれているのです。

コード名からはたどり着けない、2弦開放のBも鳴らしてヨシとするこの柔軟なC#mの押弦を採用すれば、同じフォームのままスライドしながら1.2弦を鳴らし続けられるこの運指はとても効率的です(「異端児のE♭」以外のコードはすべて、EBを含んでいますから)。

1,2弦開放の「E」と「B」、開放弦特有の明るい音色を途切ることなく鳴らし続ける豪快なストロークが、マイナー調のサウンドに疾走感と力強さを与え、重厚感と広がりを持たせる・・・。

実際に演奏してみると、もともと理論とはなんの関係もなく、気分のままにギターを鳴らしながら生まれたフレーズだったのだろうことは、想像に難くありません。

 

楽曲制作の過程について、秦さんはこう答えています。 

僕のところに話が来た時にはすでに映画も完成していたので、映像を観て作りました。でも実は、楽曲のモチーフというか、デッサンみたいなもの……こういうサウンドで、こういう曲調でっていうのはもともと持っていたんですよ。映画を観た時に、あのイメージを完成させたら合うなっていうのがあって。それからメロディーを練り、歌詞を書いていきました。 

 

ここで言及されている「もともと持っていた楽曲のモチーフ」「こういうサウンド・曲調」とは、C#mとEの間を揺れ動く、まさにこのイントロのフレーズ(あるいはそれに似たもの)であったのだと思います。 

 

3.『Q&A(&Q)』

 

ここまでの過程を記号で整理してみましょう。

演奏上のC#mのサウンド
=「C#m(コード)+B」
=「(C# +E+ G#)+B」
=「C#+(E+G#+B)」
=「C#+E(コード)」
=「C#m(コード)+E(コード)」

 

演奏に際して2弦開放のBを鳴らすC#mには、既にEメジャーが含まれています。このコードは(後にオフィシャルスコアで表記されたように)、正式には「C#m7」ですが、映画『天空の蜂』同様、秦さんは最初から種明かしをせずに、わかる人だけに伝わるような形でこっそりヒントを潜ませたつもりだったのかもしれません。

いずれにせよ、実際の演奏を聴く者は、「C#m」の表記の奥に隠された音Bも含めて、最初から表裏一体のキーの存在を感じることになります。

では、楽曲はどこに着地するのか・・・

 

善か悪かは、それぞれの立場や価値観によって揺らいでしまうものだと思うんですけど、でも大前提として、自分の手は誰かを傷つけるためにあってはいけないというか。そこは誰しも、傷つけようとして行動することってないんじゃないかって思ったんですよね。そう信じたいし。でも、そうなっていない現実があったり、傷つけようと思ったわけじゃないのに結果傷つけてしまったり。そこは人間としての矛盾ではあるけれど、逆に人間味があるなとも思って。大前提があったとして、でもそうはならない現実もあって、で、どうする?っていう。答えがまずそこにあるはずなのに、もう一回問う。それがこの曲なのかなって思うんですよね。  


「答えがまずそこにあるはずなのに、もう一回問う。」 


♪愛して 憎んで 
 どちらにせよ欲しいものは
 つまり同じだ 愛だ
 迷うことなく 人は
 手を差し出せるか?

 

結局、答えのようなものって歌ってないんですよ。そこは聴き手に委ねたというか。何かの答えを提示するというよりは、問いかけるほうがこの曲の在り方として自分としてはしっくりくる。だからこそ最後、<手を差し出せるか?>で結んでいるんだと思います。 

 

楽曲解説としては、ご本人の口からもはやすべてが語られてしまった気がします。


『Q&A』という曲には、最後に「&Q」があるのです。

それは、明確に語られた歌詞「手を差し出せるか?」だけにとどまりません。


音の世界の「&Q」は、もちろん、曲のキーを決定するまでに悩みの種になった、アウトロの最後のコード「E」です。

 

イントロと同様に、メジャーコードを内包したマイナーキーのC#mではじまり、何度も揺らぎながら、最後にはメジャーコードの色が強いEに寄せてから、ふっつりと終わる。

 

どう考えてもキーはC#mのはずなのに、最後の最後にもう一度、「ほんとにそうか?(Eの可能性はないのか?)」と問われて、そのまま突き放される感覚の、なんとも言えない後味。

 

しかし、それは単なる「後味の悪さ」とも違います。


暗くうつむいてしまうような、心が重くなる響きではないからです。

 

やっぱり、音楽としてどこまで爽快に、軽やかに、ポップスとして成立させられるかというのは強く意識しました。シリアスになったり、重たくしてしまうことはなんか違うなっていうか。 

 

楽曲最後のコードEを奏でるアップピッキングは、6弦すべてをストロークしても、重なる音はEとBのみです。(EEBEBE)

 

この楽曲のコード・フォーム、演奏だからこそ成立した、力強く、どこか爽快ですらあるEのコード。
この響きの中に、シリアスな映画の内容(歌詞の内容)にも関わらず、どこか軽やかなエンターテイメント作品として成立させようとする秦さんの思いを読み取るのは、行き過ぎでしょうか(笑)*3

 

・・・・・

まとめ

 

秦さんが『Q&A』に込めたメッセージは何か。
それを、どのように表現しているのか。

 

表裏一体のワードを何層にもたたみかけた歌詞と、それに呼応するかのようなC#mとEの間を揺れ動くキー。

1,2弦開放(EB)を鳴らし続けた、ドライで豪快なストロークが可能にする、映画のスケール感、スピード感に負けないアグレッシブな曲調。

答えはあるはずなのに、それでもまた問わずにはいられない、矛盾や業を抱えて生きる「人間という存在」。

 

できるだけ「音」から出発したつもりですが、結果的には秦さんのインタビュー記事の確認作業の域を出られませんでした。 

それでも、今までは詞の解釈どまりだった自分が、演奏の実際を通じて、「音の世界で曲を味わえた」という意味では、大きな一歩になりました。

今回は「キー」だけと範囲を定めたのに、それでも発見がいっぱい。
「コード進行」とか「リズム」のことがわかる人、実際に演奏が出来る人たちは、もっと音楽を楽しめてるんだろうなぁ。

ゆっくり、ゆっくりと、マイペースでやっていきます。
(演奏、もう少しがんばらねばw)

何はともあれ、レッスンでたくさんヒントを下さった大先生に感謝です。

 

 

5.番外:ジャケットについて

映画と同様に、この『Q&A』でエンターテイメント性(?)を追求しているのは、秦さんだけではないようです。

 

 
初回限定盤

 

 
通常盤

このジャケットを見て、「?」と思った方、それが正解です。

なんの必然性もなく、ネコ(笑)。

昨今の猫ブームに敢えて乗っかった結果なのか、映画にも歌詞にも、なんの関係なく、ネコです。

 

「白」と「黒」ということで、スタッフさんとファンの間では「天使ちゃん」と「悪魔ちゃん」と呼ばれていましたが、それがネコちゃんである必要はべつにないw。

ジャケット全体としては、「白」と「黒」の中間である「グレー」を基本に、楽曲の世界観を表現していますが、初回限定盤の秦さんは、ボルドーのVネックセーターで、初回限定盤らしいやる気wを見せてくれてますね(笑)

いずれにしても、物憂げなカメラ目線で映っている秦さんの、なんともいえない表情とぎこちない手元が醸し出す違和感、全体に漂うナンセンスな空気感が狙いだと思われます。

シリアスな楽曲のパッケージにも関わらず、中身を裏切る抜け感wというか、エンターテイメント性というか(笑)

 

 ちなみに。

「C#m」にギターを弾く人しかわからないBが隠れていたように、実はこのショットも、解禁になった瞬間からコアなファンの間で話題(笑い)をさらったシロモノなのです。

なぜならば・・・

 

秦さんはネコが大の苦手だからw。


それを知っているファンは、ドSの秦さんが罰ゲームを食らっていると、大盛りあがりでした(笑)。

デビュー9周年を『Q&A』にひっかけて盛り上げてくださるスタッフさんのサービス精神は、雑誌『音楽と人』のチャレンジ企画にも繫がっています。

題して、 

秦基博猫カフェにチャレンジ!

 

ジャケ写の撮影を通して、小さくて大人しいネコちゃんなら大丈夫と豪語するも・・・

 

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勢いよく肩に飛び乗られて、この表情w。

”「Q&A」のジャケットリアルバージョン”のキャプション付きです。

最終的には、

 

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↓「秦<猫まみれ>基博(硬直中)」の図↓

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こうやってみると、映画、曲、ジャケ写、雑誌、と、たしかにエンターテイメント性に溢れてるというか、『Q&A』の楽しみ方は、いくらでもあるんだな、という感じです*4

 

最後に、秦ファンの末席にある者として、わたしもこの『Q&A』祭りに乗っかろうかな、と。最後はこんな写真で締めたいと思います。

 

タイトルは

「『Q&A(&Q)』&・・・? 」

敢えて右下の「A」を隠してみました。

 

確定した答えなんか、

どこにもないんだ~。
(↑自己弁護w)

 

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 (完)

 

このレビューの裏側はこちら↓ 

blspvega.hatenablog.com

 

*1:この記事で紹介する秦さんのインタビューは、すべてこちらの記事からの引用です。秦 基博 映画『天空の蜂』主題歌の新曲「Q & A」でこの時代に問うものとは?/インタビュー - エキサイトミュージック(1/9)

*2:この時点では、コード付きの直筆歌詞カードにキーが明記されておらず、コード譜を掲載しているサイトでも答えが分かれていました。

*3:ちなみに、シリアスな歌詞の中でも、

♪急に怖くなって 
 傍観していたって
運命はかわらないよ♪

が、「Q(問い)」に怖くなって、のダブルミーニングなのもちょっとした遊び心ですよね。

*4:実は、まだまだでした。年内に発売されたアルバム『青の光景』の中で聴く『Q&A』と、オフィシャルギタースコアでさらに細かい点を確認して、やっと満足した感じです。
個々のコードはもちろん、エレキギターのフレーズやボーカルと併せて読むと、また面白いことがザックザク。今回まったく素通りしたサビのメロディラインとか、ノン・ダイアトニックコードの絶妙な効果とか、サビの前のブラッシングの部分とか、N.C(ノン・コード)の部分とか・・・。
こうやってるうちに、ドラムやベースのことまで知りたくなるんだろうなぁ・・・w。