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重箱の隅

好きなことだけ。

雑感:結末について

ラルフが引用したデイ・ルイスの詩『磁性の山』は、この作品の基調をなすものであり、
重要なキーワードとして
石筍stalagmite」という言葉が出てきます。


「 しかしこの家には
 ひとつだけ、あなたが決して共有できない
 否定することも入ることもできない部屋があり
 そこでは、密室の中で蝋燭の炎が
 まっすぐ立つ尖塔の如く
 揺らぐことがないように、
 あたかも陰深き洞窟の中の
 炎の石筍のように、
 魂の総体が光に照らされ、闇の中を
 永遠にまっすぐ昇って行く。」
     <パンフレットより、水谷先生の訳引用。>


英語はもちろん、日本語でも、辞書で調べるまでは、「石筍」が何かわかりませんでした。

"鍾乳洞の床にみられる、たけのこ状の岩石。
上壁から落ちるしずくの中に含まれている石灰分が沈殿してかたまったもの。"
       「デジタル大辞泉

ようするに、天井から下がっている鍾乳石の、
床からバージョンというわけですね。

原作者ジョン・ハリソン氏が住む、作品の舞台でもあるヨークシャーは、かつては鉱山で賑わった地方だそうです。
ラルフの前職も、「鉱物資源の管理」でしたし、「洞穴」や「石筍」は、ラルフにとって身近なイメージだったのでしょう。

この「石筍」という単語が、実際の舞台では、ラルフの暗誦から姿を消していました。

アフタートークによれば、翻訳者の水谷先生曰く、

「石筍」という単語がわかりづらい上、
「席順」に聞こえてしまう危険性が高いため
稽古の進んでいく中で、終盤になって(演出家によって)削除された、

とのことですが

そのことによって、ローズの台詞にも
大きな変更が加えられることになってしまうのです。

実は、今回の舞台の最後のせりふ

「たぶん 戻ってくるわ  I'll probably back.」

の後に、原作にはもう一言あったんです。


「石筍にならなければね。 If I don't turn into a stalagmite.」

※この部分を帰国子女の友人に読んでもらったところ、 一般的な「石筍」のイメージとして、「動かないモノ」だから、「石筍になる」ということは、 「命の火が燃え尽きたら→死んだら」じゃないかと言われました。

ただ、ルイスの詩で使われている「石筍」からすると、
「炎の石筍」って、「魂」と同義というか「生命」というか、
「存在の核」になるようなもののイメージで、
ローズが自分の歌を歌い、自分らしく生きることは、
石筍(魂の総体)として、光の中をまっすぐに
昇って行くということだと解釈していたんですね、私。

そうなると、ますますこの最後の2行をどうとらえるべきか、悩むのです。

友人の言うように、「石筍になること」が一般的なイメージで「死ぬこと」だとすれば、

「石筍にならなければ、たぶん戻ってくる。」は、
ポジティブな意味で、
「死ななければ(生きていれば)、たぶん戻ってくる」となるし、

私が抱いたイメージのように、
石筍が「存在の核・魂の総体=本当の自分」だとすれば、

「石筍にならなければ、たぶん戻ってくる」は
「本当の自分になれなければ、たぶん戻ってくる」というネガティブな意味になるわけで。

それは、裏を返せば、

「石筍になれば、もう戻ってこない。」
「本当の自分になれば(自分自身の歌を歌うことができれば)、もう戻ってこない」
と、ポジティブな意味も生まれるわけで。

まったく正反対の結末になるわけです。さぁ困った。

仮に、ラルフの暗唱から、「石筍」という語が削除されていなかったとしたら、舞台上でもこの最後の台詞が語られたでしょう。
もし、私の抱いた「石筍」のイメージが近いのであれば、飛ぶことを選択し、自分の歌を歌おうとしているローズは「石筍になる」のですから、「戻ってこない」という結末が確定してしまいます。

あ~でも、自分でもよくわからなくなりました。
普通に読めば、「生きていれば、戻ってくる」ですよねぇ。。。

いずれにせよ。

演出家の栗山さんの意図は、説明するのではなく、
「観客一人一人が、自分なりに受け止めること」
のようなので、

「石筍」というわかりづらい単語を削り、
最後の台詞を削除したことで、

ローズ自身が「たぶん戻ってくるわ」と言ったにもかかわらず、その後ライトが落ちるまでの、不自然なほどに長い沈黙が、なんとも言い表すことのできない余韻となって、ローズが戻ってくるのか、戻ってこないのかを曖昧にし、その判断を観る者に委ねることになったような気がします。

ラストシーンについての解釈の可能性が広がった、
という意味で、この演出はまさに大英断なんでしょうね。



それを踏まえたうえで、さて自分はこの日本版舞台のラストを
どう解釈するのかと言えば・・・

難しいですねぇ。
実は、答え、出てません。。。
本論では、「アオサギ」を重ねて美しくまとめてはみましたが
現実問題としては・・・う゛~ん・・・。