重箱の隅

好きなことだけ。

雑感:「椅子」について

この舞台にとって、最も重要な小道具は何かと言えば、

「イス」なんじゃないだろうか。

仮フライヤーでは、三脚の椅子がデザインされているし、




完成版のフライヤー(大好きです。色合いもモチーフもこの芝居にぴったりで!)から姿を消した後も、
パンフレットの中のほとんどのページで、
仮フライヤーとよく似たイスの画像が使われている。スタッフ・キャストのページの背景は、野原に置かれた二人掛けのウッドチェアだ。

そして会場に入ると、舞台には9脚のイス!
(ビーズクッションやオットマンも含めての数です)。
原作には、「座り心地のいいイス」「肘掛け椅子」「イス」の三つだけだったのに。


コテージのリビングルームに九つも椅子があるという事態は、いささか奇異にうつる。とはいえ、芝居を観ているうちに、
「カウンセラーのサリー」のコテージだということで、このイスの多さにも納得してしまった。
プロヴァンスに関しても、コテージの所有者が「画家」だから、独特のセンスをもつアーティストの部屋にイスが多くても、そうおかしい気がしない。)

カウンセリングや心理療法
イスが重要な小道具なのはよく知られている。
フロイトが提唱した精神分析では、
「カウチソファ(寝椅子)」が使われるし、
ゲシュタルト療法には「エンプティ・チェア(空の椅子)」という
カウンセリング方法もある。
心理学では、配置も種類も様々なイスの、
どれに座るか、どんな姿勢で座るかが重要だ。


舞台上の三人がどのイスに座るか、どんな風に座るかによって、心理的な距離感、緊張感、安心感、関係性がその都度見えてくるのもおもしろい。
(もはやイスではなく、ローズとラルフがテーブルの脚を背もたれにして仲良く床に座る、ということもあった。)


観劇後にお話させていただいたMさんは、
「イスは”選択”を意味するんでしょうね」と鋭い指摘を下さった。



このコテージで、7日目の約束の日、ローズが抱えた問題は二つ。選択肢はそれぞれ三つ。


アーサーのもとへ戻るか、ラルフの手を取るか、それとも一人で生きるか。
医者のもとへ戻るか、、最新の治療に身をゆだねるか、何もしないか。


どちらも、彼女にとっては「人生最大の選択」だ。
奇しくも3の二乗=9脚の椅子がそれを見守っている。


そして一度“選択”しても、イスは「自分の居場所」であると同時に、いつかは立ちあがって、「去らなければならない場所」。

ローズは、「飛ぶこと」「自分の歌を歌うこと」を選択し、椅子から立って、コテージを後にする。
次は、アーサーとラルフの番だ。彼らは、どんな選択をするのだろう。