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重箱の隅

好きなことだけ。

「名前」で観る(読む)『Holidays』 ~おわりに~





  Anda heron rose…*7) 

そして、一羽のアオサギが飛び立った・・・。

 


 客電がついた後、がらんとした舞台を眺めながら、ふと気がついた。

この椅子だらけのコテージの所有者であり、隠遁生活の提案者。舞台には登場せずとも、むしろ、この物語の「場」そのものとして機能し、常に存在感を漂わせていたその人の名は

 

Miss. Sally*8) Goodwin…    good win.(「良き 勝利」)。

 

 

カウンセラーにとっての最大の目標は、患者がカウンセリングを必要としなくなることだ。同時に、サリーはローズに問いかけていた。「あなたは自分の歌を歌っていますか?」と。

 

 手術も、最新の治療も、カウンセラーすらも捨てて飛ぶことを決め、「自分の歌」を歌い始めたローズ。
  彼女が自分自身で選択した旅立ちによって、カウンセラーとしての「勝利」を収めたサリー。

  どこへたどりつくともわからない物語に正解はないけれど、サリーもその名の通り「勝利者」であり、この舞台の影の主役だったのかもしれない。たとえこの結末が、単純な「良き」「勝利」でないとしても*9)




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7)  このフレーズはもちろん原作にはない。私個人の感想を、本レポートの趣旨に沿って、言葉遊び的にまとめたものである。Roseと同じスペルのroseは、rise「飛び立つ」の過去形。

8)  SallySarahの愛称。Sarahの語源はヘブライ語で「高貴な女性」の意。旧約聖書の『創世記』に登場する太祖アブラハムの妻であり、イサクの母。ユダヤ教の重要人物である。参考URL

9)  旧約聖書に見られるSarahの逸話からは、彼女が他人に対する影響力の強い人物であり、時としては、支配的な部分もあることが感じられる。この劇中におけるサリーも同様で、どれほどローズが親しげに、全幅の信頼を置いて語りかけていようとも、その存在はどこか異質に思えて仕方がない。サリーをめぐる違和感は、ローズがテープレコーダーに向かって話す際の効果音にも現れているのではなかろうか。スイッチを入れた直後からずっと鳴り続ける、機械に通電しているときのかすかな音。生理的に我慢できない不快さを感じるか感じないか、ギリギリのところで鳴り続けるあの音が、不在ながらも強烈な存在感を示すサリーの、感覚レベルで捕らえられたある種の不気味さを表している気がする。