読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

重箱の隅

好きなことだけ。

「名前」で観る(読む)『Holidays』(4)

舞台 『Holidays』

ローズに生きる希望を与えたかに見えたラルフは、しかし最後の最後、アーサーを前にした際の態度で、ローズに不信感を与えてしまう。「あまり自分の主張をしなかった」ラルフに対して、「bloody nobleものすごく気位が高い」と同時に、「gray(=grey)曖昧な」「lingやつ」とローズが思ったとしても仕方がない。そしてラルフの不用意な一言で、純粋で崇高な愛が「不倫」に貶められた後は、彼が「Rose…」と名前を呼んでも、「And stop saying my name. I’m beginning not torecognize it. 私の名前を呼ぶのをやめて。自分の名前がなんなのか、わからなくなってきたわ。」と、ローズはとりつく島もない。

 

ラルフにワインを買いに行かせている間に、タクシーを呼んだ後の最終場面。「自分の根っこを引き抜きたい気分」でローズが下した決断、「飛ぶこと」は、たとえそれが「不名誉なフライト」であり、「もうこれ以上ひどい目にあいたくない」という咄嗟の気分に左右された選択だとしても、彼女が彼女らしく命を燃やして生きること、今度こそ自分にあったキーで「自分の歌を歌う」ことに通じていると私には思える。


 
サリーへの最後のメッセージを言い終えたローズを、スポットライトが真上から照らしている。その光が徐々に弱まり、闇に包まれていく舞台の上で、ローズの輪郭に沿って浮かぶ光の跡。私にはそれが、劇中で削除された語「Stalagmite石筍」のシルエットに見えた。洞穴の中で乳白色の光を放って立つ鍾乳石。この瞬間、ローズは心の中の洞穴にある、彼女以外の誰も入ることができない、あの小さな部屋の石筍そのもの、魂そのものになったのではなかろうか。ローズという名前すら単なる記号に過ぎず、まるでバラの根っこを引き抜くように、「自分」だと思っていたものから己を解き放ち、名付けようのない真の存在になること・・・。


 
 ワインを買って戻ってきたラルフは、空っぽの部屋の中で、きっとすぐに理解するだろう。ローズの「傷つきやすい弱さ」を見過ごせず、その心に寄り添うきっかけとなったあのテープで、ラルフは彼女の心からの望みを聞いていたのだから。その望みを、今度はただの希望ではなく、彼女は自分の意思で、自分の選択で実行したのだと。「ただ生きる」ために、「すべては後に残して」「リュックひとつで出かけ」たのだ、と。