重箱の隅

好きなことだけ。

「名前」で観る(読む)『Holidays』(1)

 原作を一読し、実際の舞台を観て感じたのは、原作者ジョン・ハリソンは意図的に、「名前」に重要な役割を与えているということだ。それはまず、ラルフとローズのシーンで明らかになる。打ち解け合っていく中でファーストネームを名乗り、互いにRで始まることに無邪気に喜ぶラルフ。名前を呼ぶことは、時には親しさの証拠(「ファーストネームで呼び合った!」であり、ギクシャクするシーンで呼ばれる名字(Mrs. RawsthorneMr. Grayling)は、苛立ち(「他人扱い?」)や心の距離を表す小道具になる。

 アーサーにもまた、「名前」に関するシーンがある。ローズのガンが姿を消していた頃のプロヴァンスのコテージ*2)
。「ガンを愛することを学ばねばならない」というサリーのアドバイスが功を奏したことに感謝して、「In the name of the Rose and the Rose and the Rose. For ever andever. Amen. ローズの名において。永久に。アーメン。」と、聖父と聖子と聖霊の名に変えてローズの名前を唱えるシーン。(原作では)名前を3回繰り返すというこの演技*3)は、物語の終盤でローズがラルフとの関係をアーサーに告白するシーンで再び登場する。しかし今度は痛みにも似た、「複雑な感情」から。「Rose, Rose, Rose…I love you, Rose」。

 ローズも「名前」には敏感だ。アーサーが去って行った後のラルフとのラストシーン。ラルフの呼びかけに、「
Oh, Rose, Rose, Rose. What do you all expect to get from chanting my name?ローズ、ローズって、私の名前を唱えてれば何もかも手に入るとでも思ってるの?(訳ⓒitoyan様)」And stop saying my name. I’m beginning not torecognize it.私の名前を呼ぶのはやめて。自分の名前がなんなのか、わからなくなってきたわ。」と再三怒りをぶつけている

そして、最終場面で「So I just feel like pulling up my roots. 自分の根っこを引き抜きたい気分よ」と言い放ったローズが下す決断にも、「名前」が関わっているように受け取れた(それについては、また後ほど述べる)。


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2) 舞台では省略された場面だが、プロヴァンスのコテージで、ローズと蝶の図鑑を見ながら、蝶の「名前」について語る場面がある。アーサーは
Dewy Ringlet(露?ジャノメチョウ)の「名前が好きなんだ」と言ってみたり、バタフライウォッチングで見た蝶に、「I think we should invent our own names.僕らは自分たちの名前を考案するべきだと思うんだ」と、名字であるローストーンを組み込んだ名前を付けておどけてみせる(「僕らが見たのは、”Tipsy Two-tailed Rawsthorne’s Cracker”だ」)。

3)
舞台では改変されているのだが、ローズとラルフの原作でのラブシーンが興味深い対照性を示している。突然ラルフに抱きしめられて、はじめは抵抗しながらも、徐々に抗えなくなるローズ。この間の二人の台詞が、ラルフ「Rose…」ローズ「Oh God…」を3セット繰り返すのだ。三位一体の代わりにローズの名を唱えたアーサーと、この台詞を交わした後に心身共に結ばれる二人とが美事な対比をなしている。